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愛知大会現地便り⑤Letters from Staff

私にとっての全国大会  駆け込み寺,支える杖,そして羅針盤

服部由紀子(愛知県・退職者)

『思考と言語』『楽しい英文法』との出会い

 愛知支部は私が教師になった年に誕生しました。「使わない英語をなぜやるのか?!」と生徒から訴えられ,駆け込んだ例会で読んだのが『思考と言語』(ヴィゴツキー)でした。
 第4回全国大会(伊香保)では,伴,林野,大西先生等,巨匠の討議討論に明け暮れました。「林野先生は教科書を作っておられる」と知ってびっくりしました。大西先生のギターで歌ったWE SHALL OVERCOME の歌は現在まで歌い継がれています。
 第38回全国大会では「『楽しい英文法』(林野滋樹著)のおかげで,弁護士になった。」という大平光代氏のスピーチがありました。中学校の初期から学校へ行けなかった彼女が,独学を始めた時,手が付けられないのが英語だった。「この本に出合って英語が分かるようになった。」と。この時,永年の私の疑問に答えが与えられたと思いました。英語を学ぶことは「一言も使う必要のない者にとっても意義がある」。言語の獲得は,思考のルートの獲得。外国語は,母国語以外のもう一つの言語。英文法とは英語の思考ルートのルール。『思考と言語』の理論を実践化した試みが『楽しい英文法』ではなかったかと。

『はだしのゲン』に支えられ

 1970年~80年頃の全国大会で『はだしのゲン』の英語版を共同チームで出版という報告がありました。第一巻を地下鉄で読み始めた私は,涙を止めることができませんでした。当時は校内暴力が盛んで,家庭訪問は日課でした。ところが,謹慎中の生徒の家はもぬけの殻。ドアの下に『はだしのゲン』を差し入れて帰りました。卒業式の後のこと,暴走族の親分から呼び出しを受けました。内心ビクビクしている私に親分は全巻を揃えて返しました。「この本は面白かった。仲間で回し読みした。」と。それから30年。退職した年の同窓会で,その生徒の呼びかけで行われた胴上げは最初で最後の体験でした。
 また,英語版は米人教師が「この本を読んで,眠ることができなかった。他の人にも読ませたい。」と米国に持って帰って行きました。貸したつもりのその本が帰ることはありませんでした。

第56回全国大会(愛知)のめざすもの

 今回の全国大会のテーマは「生涯を通しての英語教育はどうあるべきか」です。記念講演講師の久保田竜子氏は,カナダ,ブリティッシュコロンビア大学の教授,応用言語学の研究者です。日本での中・高校教師の経験もおありで,外国人に日本語を教えてもおられます。世界的視野から,日本の英語教育がどうあるべきかという示唆を与えていただけることと思います。
 また,文化的行事では静岡支部による映画『西から昇った太陽」が上映されます。若い米国人監督が4年をかけて制作したものです。米国人により,自国が行った水爆実験で,『第五福竜丸』の乗員はどんな人生を強いられたかを米国人に伝えようと,被爆者に寄り添って制作されたものです。核保有で最大の米国は核禁止条約の署名を拒否し,被爆国日本はそれに追従しています。福島後の日本で,被災者へのいじめを止められないでいる私たちがこの映画を観る意義は大きいものと思われます。

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 隣り合わせた人から,深い悩みを聞き,教師を辞めようとしていた私は,続ける勇気をもらいました。私にとって全国大会はかけがえのない場です。

『新英語教育』5月号より
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